研究及び教育機関における教員等の優位な立場にある者が、学生等の劣位な立場にある者に対して不利益な行為をした場合、いわゆるアカデミックハラスメントとして不法行為となることがあります。具体例として、研究活動・進級・単位認定・就職に対する妨害、指導義務の放棄、指導上の差別、研究成果の収奪、過度の暴言叱責などの行為が挙げられます。
名古屋地裁令和2年12月17日判決(判例タイムズ1502号222頁)は、アカデミックハラスメント行為が不法行為に該当するかどうについて、①当事者の立場や優劣の程度、②行為の目的、動機経緯、立場、③職務権限濫用の有無、方法、程度、④行為の内容、態様、⑤相手方の侵害された権利利益の種類、性質、⑥侵害の内容及び程度、などの事情を考慮して、「当該行為が教員等の学生等に対する研究教育上の指導として合理的な範囲を超えて、社会的相当性を欠く行為といえるかどうか」によって判断すべきと判示しました。その上で、教職員の行為のうち、研究員の承諾なく独断で学術論文の共著者に研究員の氏名を掲載しなかったことについて、不法行為に当たると判断しました。
本件では、教職員と研究員との間のメールが残されており、訴訟に先立って大学法人内でハラスメント防止対策委員会による調査が行われていたようですが、一般的に、学術機関においては閉鎖的な環境で研究や指導が行われることから、ハラスメント行為の立証は容易ではないと言われています。