カズオ・イシグロ『遠い山なみの光』

イギリスの田舎町で暮らす悦子のもとを、娘のニキが訪ねてきます。ニキの姉景子は自ら命を絶っていて、二人は苦い思い出を回想しますが、やがて悦子は、景子が生まれる前、戦後長崎での出来事を語ります。悦子にとって、佐知子と万里子という母娘との交流が意味するものは何なのか。

先日公開の映画を、小説を読んだ直後に見ました。原作ではっきりとは描かれていなかった原爆被害の影響、背景事情が、行間を埋めるように細かにちりばめられていて、原作の深読みができたように思いました。

本作は40年以上前に発表された作者最初の長編です。テレビドラマで話題となった『わたしを離さないで』や前作『クララとお日さま』に比べると、分かりにくい物語ではありますが、作者独特の静かで上品な語り口を味わうことができます。