ジェレミー・ベンサムが設計したとされる円形刑務所パノプティコン。ミシェル・フーコーは著書『監獄の誕生』のなかで、近代社会において権力者による管理システムの起源と位置づけました。フーコーの議論において欠けているのが、白人による黒人監視、人種差別の視点だと著者は指摘します。
18世紀のニューヨークにおいて、黒人奴隷は、灯ろうを携行することなしに夜間路上を歩いてはいけないとされました(ランタン法)。奴隷の身体的特徴を記録した「黒人の書」や、奴隷の体に押される焼印は、現代の生体認証技術の先がけともいえます。
書名「ダークマター」は、本来、宇宙に広く存在するにもかかわらず、その姿を観測できない物質をいいます。日本で暮らす者にとってはとりわけ見落としがちな黒人差別の歴史と実態について、目を凝らして直視する機会を与えてくれる書です。