マーガレット・アトウッド『誓願』

近未来のアメリカ合衆国。キリスト教原理主義勢力がクーデターを起こして建国したギレアデ共和国は、徹底した男尊女卑政策を進めます。ふしだらと烙印を押された女性は、「侍女」として「司令官」の子どもを産むだけの役割を強制されます。1985年に発表された『侍女の物語』では、主人公の侍女オブフレッドが暗黒社会の実像を語りました。

『侍女の物語』の続編となる本作では、前作で女性最高幹部として暗躍したリディア小母に加え、幹部候補生のアグネス、隣国カナダに住むデイジーが、国家の闇に立ち向かいます。立場の異なる3女性の語りによって、リディア小母の過去や、アグネスとデイジーさらにオブフレッドとの関係が徐々に明らかになっていきます。ギレアデ崩壊に向かう展開はスリリングで、重苦しい印象の前作とは違った読み応えがありました。

アメリカの連邦最高裁判所は、昨年、人工妊娠中絶を憲法上の権利と認めた50年前の「ロー対ウェイド判決」を覆しました。キリスト教福音派を支持基盤とする前大統領が任命した判事が多数派を占めた影響といわれます。アフガニスタンのタリバン政権でも、女性に対する抑圧が強まっています。本作の設定では、災害や出生率低下など負のスパイラルが続くアメリカで、ギレアデが政権が奪取します。人びとが危機に直面し、極端な原理主義勢力の台頭を許したとき、単なる架空のディストピア世界にみえる神権国家が、現実のものになるかもしれない。その危機感を常にもっておく必要がありそうです。