Aが自分の土地だと思って長期間使用していた土地の一部が実は他人B名義だった場合、Aは取得時効により所有権が認められ、Bに対し移転登記を求めることができます。しかし、Bがその土地を第三者Cに売却して登記を移転してしまうと、AはCに対して取得時効による所有権を主張することができなくなります。そうした事態を避けるため、Aは、当該土地に関し処分禁止の仮処分命令を申し立てることができます。仮処分登記がされれば、Bは第三者に売却したりすることができなくなるのです。
そして、対象となる土地が一筆の土地の一部分であった場合、処分禁止の仮処分命令は、分筆の登記をした上で当該一部分にのみされるべきで、土地全部についての仮処分命令は認められないのが原則です。この点に関し、最高裁令和5年10月6日決定(判例タイムズ1519号184頁)は、「分筆の登記の申請をすることができない又は著しく困難であるなどの特段の事情が認められるときは、当該仮処分命令は、当該土地の全部についてのものであることをもって直ちに保全の必要性を欠くものではない」とし、当該土地全部についての仮処分命令を認めなかった原審に審理を差し戻す決定をしました。
分筆の登記申請に際しては、地積測量図等の提出が要求されるなど、権利者が直ちに分筆の登記申請ができない場合もありうる点が考慮されたものと考えられます。