交通事故物的損害の消滅時効

平成27年2月26日に発生した交通事故により傷害を負い、同年8月25日に治療が終了(症状が固定)した被害者が、平成30年8月14日になって、加害者を相手に訴訟を提起しました。人的損害については症状固定日である平成27年8月25日が3年の消滅時効の起算点になるため、その時点から3年以内に訴訟を提起したというわけです。これに対し、加害者側は、物的損害については、事故から3年以上が経過していて消滅時効が完成していると主張しました。

最高裁令和3年11月2日判決(判例タイムズ1496号89頁)は、「車両損害を理由とする損害と身体傷害を理由とする損害とは、これらが同一の交通事故により同一の被害者に生じたものであっても、被侵害利益を異にするもの」であるという理由により、加害者の主張を容れ、物的損害の請求は認められないとしました。

令和2年4月1日に施行された現行民法では、物的損害の消滅時効期間が3年であるのに対し、人的損害の消滅時効期間は5年に伸長されています(民法724条の2)。いずれにせよ、交通事故の治療が長期化し症状固定までに時間がかかる場合、物的損害については事故から3年(正確にいうと「損害及び加害者を知った時から3年」)を過ぎると時効が完成して請求できなくなりますので、注意が必要です。