供託の要件

BはAから賃借した建物をCに転貸しましたが、CがBに賃料を支払おうとしたところ、Aから「Bは建物を無断であなたに転貸したので契約を解除しました。以後、賃料はAに支払ってください」と言われました。このように、建物を借りたけれども貸主同士で争いがあり、賃料を誰に支払えばよいかわからない場合、借主はどうすればよいのでしょうか。

弁済者は、過失なく債権者を確知することができないとき、法務局など供託所に供託することができます(民法494条2項)。期限までに債務の弁済(賃料の支払)をしなければ遅延損害金が発生しますが、供託をすればその義務を免れます。

東京地裁平成31年1月24日判決(判例タイムズ1472号205頁)は、冒頭の事案で、AはCと新たな賃貸借契約を締結しようとしており、BC間の転貸借契約が終了したわけではない以上、Cによる供託は有効であると判断しました。しかし他方で、AがBとの契約を解除した上でCに対して建物の明渡しを求めた場合には、BC間の転貸借契約は当然に終了します。その場合、過失なく債権者を確知することができないとの要件を満たさず、供託は認められません。

ほかに「弁済の提供をした場合において、債権者がその受領を拒んだとき」「債権者が弁済を受領することができないとき」にも供託が認められます(民法494条1項)。供託をする際にはその要件を満たすかどうか慎重に検討する必要があります。