加藤寛幸『生命の旅、シエラレオネ』

2014年11月、国境なき医師団の一員として、西アフリカのシエラレオネで猛威をふるったエボラウイルス病治療に従事した小児科医の記録です。勤務初日、同僚から、9歳の少年患者の体を一緒に洗ってほしいと言われ、おそるおそる少年の体に触れたとき、目の前にいるのが「エボラウイルス」ではなく「幼い一人の少年」であることに気づきます。翌日、少年は亡くなりますが、抱っこしてほしいという願いを叶えてあげられなかったことを悔やむ著者は思い至ります。ここは「また明日」「後で」が許されない現場なのだと。

一人の患者に莫大な医療費が費やされる豊かな国がある一方で、数百円の薬が買えずにたくさんの子どもたちが亡くなっていく国がある。新型コロナウイルス感染症に直面する私たちは、自分たちの「大切な命」を声高に訴えますが、貧しい地域で起こっているさらに悲惨な現実に目を向けることはありません。本書で強調されているように、恵まれた人々はこの不条理にもっと向き合わなければならないように思います。

「今にも消えてしまいそうな生命を前にして、僕がすべきことは、彼らを哀れむことではなく、彼らが輝かせた生命に敬意を表することだ。先進国で高度な医療を享受して生きる僕に欠けていることを、数多く教えられたように思う」