労働組合法によれば、使用者は労働者代表者との団体交渉を正当な理由なく拒むことはできないと定められています(法7条2号)。
ある国立大学法人Aは、労働組合との間で、55歳を超える教職員の昇給を抑制することなどについて団体交渉をしましたが、同意を得られないまま、昇給の抑制などを実施しました。労働委員会は、Aの対応が不誠実であるとして誠実に団体交渉に応じるべき旨を命じました。これに対し、Aがその処分の取消訴訟を提起したところ、第一審及び控訴審は、Aが労働組合と改めて団体交渉をしても有効な合意を成立させることは事実上不可能であったなどとしてAの請求を認容しました。
これに対し、最高裁令和4年3月18日判決(判例タイムズ1498号33頁)は、合意が成立する見込みがなくても、使用者が誠実に団体交渉に応じれば、労働組合は使用者から十分な説明や資料の提示を受けることができ、労働組合の交渉力の回復や労使関係のコミュニケーションの正常化が図られると指摘しました。その上で、誠実交渉義務違反があるかどうかの審理を尽くさせるため、原審に差し戻す判断をしました。
第一審及び控訴審の考え方によれば、使用者が合意成立の見込みがないことを理由に誠実な団体交渉を拒むことを認めることになりますが、最高裁はこれを否定したもので、重要な意義をもつ裁判例と考えられます。