ある生命保険会社が、勤務する従業員が業務上使用している携帯電話の使用料金(経費)は当該従業員が負担すべきだとして、給料から経費を差し引いて支払いました。これに対し従業員は、賃金全額払の原則(労働基準法24条1項)に違反するとして、経費の相殺は認められないと主張しました。
大阪高裁令和6年5月16日判決(判例タイムズ1532号36頁)は、会社と労働組合との間で経費負担に関する合意がされており、その合意は労働者の自由な意思に基づいてされたものであるとしながら、労働者が反対の意思を示した時点以降は、経費の控除は認められないと判断しました。
賃金全額払の原則との関係では、相殺合意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであるかどうかがしばしば問題となります。合意がされた経緯や経費の性質なども踏まえて、自由意思が認められるかが判断されることになります。