吉田千亜『孤塁-双葉郡消防士たちの3・11』

福島第一原発のある双葉郡の消防士たちは、震災直後、被災者の救援だけでなく原発敷地内の救助活動や給水活動にも加わることとなります。満足な情報が得られない中、放射能汚染という目に見えない恐怖に慄きながら、それでも自分たちがやるしかないと奮闘する姿は、孤立した最後の砦を守る、まさに表題そのものです。

消防士の一人が、自分たちの活動は国や県の記録に残っているのだろうか、と疑問を抱く場面があります。自衛隊による救援活動はマスコミで大々的に報道されているのに、双葉消防は何をやっているんだ、という声があったそうです。

家族との時間を犠牲にし、時に死の恐怖に直面しながら不眠不休で救援活動を続けた人々がいたことに、震災の直接被害を受けていない私たちは、思いを致すことがありませんでした。そして、私たちと私たちが選んだ政治家たちは、今、原発の有効活用、再稼働に向けて着実に歩を進めています。果たしてそれでよいのか、立ち止まって考えるためのノンフィクション作品です。

震災に関連してもう一冊。佐藤厚志『荒地の家族』は、震災後に家族や友を失ってしまう主人公が描かれます。この小説で「災厄」と表現される悲劇は、地震や津波被害そのものだけではなく、震災をきっかけに人々の心身や生活が少しずつ荒廃していくことを意味しているように思います。人々が災厄によって受けた傷は簡単に癒えるものではないと、心に刻まなければなりません。