小泉悠『「帝国」ロシアの地政学-「勢力圏」で読むユーラシア戦略』

最近、ロシアや軍事の専門家としてメディアに引っ張りだこの著者が、ウクライナ侵攻前の2019年に発表した著書を手に取ってみました。

興味深いのは、ロシアが考える「主権国家」の概念。プーチン大統領によれば、主権国家とは、他の国の干渉を受けずに自主自存できる権力体を指します。そうすると、主権国家といえるのはアメリカやロシア、中国、インドなどごく少数の国にとどまり、ウクライナはもちろん、NATOやアメリカの庇護を受けている日本やドイツも主権国家ではないというのです。

また、ソ連が分裂して生まれた旧ソ連構成諸国はロシアの「勢力圏」にあるものとみなされ、「勢力圏」への軍事介入は、ロシア系住民の保護という目的によって正当化されます。そして、スラブ系民族が多く住むウクライナはロシアにとって「ほとんど我々」という存在です。そのウクライナが、EUやNATOなど西側諸国の枠組みに参画しようとする動きはロシアにとって裏切りに外なりません。

本書を読むと、2014年のクリミア併合から今年勃発したウクライナ侵攻に至る過程は、ある意味必然的な流れのようにも思えますが、ロシアの軍事行動が国際秩序を脅かす蛮行であるという結論に揺るぎはありません。