岡典子『沈黙の勇者たち-ユダヤ人を救ったドイツ市民の戦い』

ナチス政権の下、何年にもわたって潜伏を続けたユダヤ人と、彼らが生き延びるために援助の手を差しのべたドイツ人の記録です。当時のドイツは、ユダヤ人が潜伏していることを知った場合、これを通報するのが市民の義務とされ、密告が横行する超監視社会でした。ユダヤ人を匿っていることが知られれば自身にも危害が及ぶ。にもかかわらず、なぜ彼らは命をかけてユダヤ人を助けたのか。

ユダヤ人を救援した人々の類型として、反ナチを掲げる抵抗運動グループ、政府批判まではしない市民グループ、そしてユダヤ人自身による自助グループがありました。救援の動機や関わり方には様々なものがあったことが語られますが、著者は最後にこのように述べています。

「すべてのものを奪われたとき、人間が求めるものとは何か。いかなる闇のなかに投げ出されても、それでもなお『未来』を信じ続けるために人は何を必要とするのか。それは、結局人である。(中略)たとえたったひとりでも、自分の存在を肯定し、大切に思ってくれる者がいる。その思いは、極限状況におかれたユダヤ人をこの世につなぎとめる、最後にして最大の砦となった。」