島田雅彦『君が異端だった頃』

著者曰く「そう遠くない未来、自分の記憶も取り出せなくなってしまうので、その前にすでに時効を迎えた若かった頃の愚行、恥辱、過失の数々を文書化」した自伝小説で、少年時代や青年時代のエピソードが赤裸々に描かれます。中でも、デビュー作以来芥川賞に落選し続けながら一定の評価をしてくれたという中上健次や大江健三郎、その他並み居る文豪たちとの愛憎劇が印象的でした。「正直者がバカを見るこの国で本当のことをいえば、異端扱いされるだろうが、それを恐れる者は、小説家とはいえない」と書かれているように、世の中に迎合しない「異端」な人たちによって生み出される言葉や物語が、歴史に名を連ねる文学作品になるのだと思います。

他方、「異端」な人が小説家ではなく大手新聞記者になるとどうなるのか、鮫島浩『朝日新聞政治部』を読むとよく分かります。著者は、朝日新聞が東京電力の原発事故に関する記事を取り消して大きな問題となった、いわゆる「吉田調書」記事の担当デスクで、現在は退職して独立メディアを立ち上げています。新聞社という大企業の意思決定に至るプロセスの問題点、組織の暗部があぶり出されます。