川内有緒『空をゆく巨人』

中国出身の美術家・蔡国強は、福島県いわき市の実業家・志賀忠重との出会いをきっかけに交流、友情を深め、世界屈指の現代美術家と呼ばれるまでになります。蔡の作品の中に、いわき市で朽ちていた廃船をオブジェとして展示するものがあります。志賀を中心としたいわきチームは、蔡の一見無茶な要求に困りながらも、楽しんで製作に参加します。

そんな中、東日本大震災、福島原発事故が起こり、志賀は、いわき市の山に9万9000本の桜を植える事業を始めます。復興に直接つながるわけでもない桜の植樹をなぜ行うのか、当初、周囲の人たちは反対します。志賀は、制御不能の怪物と化した原発を便利なものとして受け入れてきた自分たちに対する怒りを鎮めるため、と言います。志賀の思いに賛同する人たちによる植樹が、今、少しずつ行われています。

蔡の美術展「I Want to Believe」に関する次の文章に、二人の型破りな行動の原動力となっている共通の信念が表われているように思います。

「蔡は一貫して、人智を超えたもの、目に見えないもの、科学で解明されていないもの、人類には手の届かないもの、人間がコントロールできないものを作品に取り入れてきた。火薬、宇宙、風、海、異星人、巨人、風水、龍、気、漢方、平和、そして友情も―。その全てを、『私は信じたい』。」