末並俊司『マイホーム山谷』

東京のドヤ街「山谷」には、路上生活者や生活困窮者を積極的に受け入れるホスピス施設「きぼうのいえ」があります。創設者である山本雅基さんは、妻美恵さんと二人三脚で施設を運営し、美恵さんは山谷のマザーテレサと呼ばれるようになります。夫婦の活動はNHKのドキュメンタリー番組でも取り上げられるなど、注目を集めました。

ところが、美恵さんはほどなくして山本さんのもとから姿を消します。山本さんもきぼうの家の理事を退任し、いまは生活保護を受給して一人暮らしをしています。同じ山谷で、支援する側から支援を受ける側に回った山本さんに何があったのか。

高い志をもちながら繊細で不器用なため、苦境に陥ることとなった山本さん。著者とのこんなやり取りが印象に残りました。

「『山谷の地域包括ケアは資本主義からはみ出しているんだと思う』『その資本主義からはみ出している部分って何でしょうか?』『たぶん、愛なんじゃないかな』サラリと言った。愛なんて、最もいい加減で不確かなものだ。妻に去られた経験のある山本さんがその現実を感じていないはずがない。やっぱりほんとに不思議な人だ。こういう考え方ができる人だからこそ、きぼうのいえは完成したのだ」