松村圭一郎『くらしのアナキズム』

アナキズム。無政府主義と訳され、国家に反逆する革命のイメージを想起させます。本書は、エチオピアでの調査や熊本での震災経験などを通して、国家の力によらず自分たちで平和と秩序を生み出すことができるのではないか、人類学の観点からアナキズムを考え直してみようという本です。

アマゾン先住民の首長は、「公けの仕事そのものが報酬である」と考え、自分の利益よりも共同体の利益を優先させます(レヴィ=ストロース『悲しき熱帯』)。また、多数決で決めると「茶飲みに行く家の数がへってうまかあねえもの」と考え常に満場一致をめざす対馬の民衆がいます(宮本常一『忘れられた日本人』)。

そこには、私たちが当たり前のものと考える政治家や多数決民主主義とは異なる、リーダーや社会の姿があります。満場一致の意思決定などは、大きな人口規模の共同体では現実的ではないのかもしれません。しかし「人びとが時間をかけてやってきた関係や場の『耕し』こそが、危機のときに問題をともに察知し、柔軟に対応する素地となる」という著者の指摘は、機能不全に陥ったいまの民主主義社会において大切な視点ではないかと思います。