出生前診断で異常なしと判断されたが、生まれた子どもはダウン症で、わずか3か月で亡くなりました。子どもの両親が、出産するか中絶するか決定する機会を奪われたとして医師を相手に損害賠償を求めた裁判は、日本で初めての「ロングフルライフ(wrongful life)」訴訟と呼ばれ注目されました。
現在の母体保護法では、中絶が認められるのは、身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのある場合に限られ、障害を理由にした中絶は認められていません。ただ実際には、出生前診断で染色体異常が認められた場合に中絶が行われています。
法律の建前と現実の違いに疑問をもった著者は、裁判の当事者だけでなく、ダウン症の家族や医療関係者の声にも耳を傾けます。ダウン症の子どもを持つ親は、出生前に判断できたなら生まなかったかもしれない、でもこの子がいない人生は考えられない、選ばなければいけないお母さんがかわいそう、と言います。子ども病院の助産師は、子どもの命を助ける病院で子どもの命を選別する手術をしなければならない葛藤に苦しみます。
命の選別の問題に直面した当事者が語る思いはどれも切実で、何が正解かという答えは簡単には出せません。今後、出生前診断を通して子どもを生むかどうかの判断を迫られる人はますます増えていきます。答えのない難題について深く考えるための良書だと思います。