河﨑秋子『ともぐい』

明治時代後期、北海道の山に一人で暮らす熊爪は、鹿など動物を狩り、肉や毛皮を町に住む商人・良輔に売って生計を立てていました。鹿を解体し臓腑を取り出す、肝を生のまま食らうシーンなどは実に生々しく描かれています。

熊爪は、あるとき、熊に襲われ瀕死の傷を負った男を助けます。男を襲った「穴持たず」を追跡するうち、さらに強力な熊「赤毛」が登場。穴持たずと赤毛の死闘、勝った赤毛に戦いを挑む熊爪との決闘の凄まじさ。それ以上に、赤毛を仕留め念願を果たしたはずの熊爪が抱く複雑な感情描写が、圧巻でした。

熊爪はその後、良輔の屋敷で出逢った盲目の少女・陽子を見初めます。熊爪と陽子は、ともに親から捨てられ、急速に進む文明社会に溶け込めない半端者。クライマックスは悲しく衝撃的ではありますが、人間(理性)と獣(本能)のあわいで揺れ続けた二人の、それぞれの願いが叶った瞬間だったようにも感じました。