渡辺努『世界インフレの謎』

2022年2月、ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、燃料資源や小麦などの価格が高騰しました。世界中で現在も続いているインフレの主原因は戦争であると、一般的に説明されることが多いようです。しかし、インフレの兆候は、実は戦争前の2021年春ころから見られていました。

インフレの真犯人は誰なのか。新型コロナウイルス感染症だというのが著者の主張です。パンデミックの経済への影響は2022年ころには下火になったように思えます。しかし、在宅勤務に慣れた労働者は経済再開後も会社や工場に戻らない。働き手が減少し、モノやサービスの供給が減った。供給の減少が主な原因だというのです。

現在、欧米の中央銀行で行われている利上げによるインフレ対策は、需要の増加を抑えることを目的としているので、供給サイドが原因のインフレをコントロールするのは簡単ではありません。特に、米国では利上げによっても物価上昇に歯止めがかからないのが現状です。

こうしたインフレと利上げの世界の流れに、日本だけが取り残されています。モノの値段が上がらない状況に長期間慣れてしまったため、賃金も上がらない。慢性デフレが根付いてしまっている日本において必要なことは、生活を守るために賃上げ要求が正当だという理解が人びとの間で広まり、人件費の上昇分を価格に転嫁できると企業が考えることです。