相続回復請求権と取得時効

Aの養子で唯一の相続人であるXがAの遺産である自宅土地建物を相続し、自宅に住んでいたところ、14年後になって、Aの遺産をX、Y1、Y2(YらはAの甥と姪)に等しく分ける内容の自筆証書遺言が見つかりました。Xとしては、自宅に10年以上住み続け取得時効が成立した(民法162条2項)として、Yに権利はないと主張したいところです。Xの主張は認められるでしょうか。

YがXに対して相続権を主張する際に根拠とする権利を相続回復請求権といい、相続権を侵害された事実を知った時から5年間、かつ相続開始から20年間に限り行使することができます(民法884条)。

東京高裁令和4年7月28日判決(判例タイムズ1518号113頁)は、相続回復請求権の行使期間内であったとしても、取得時効の成否が先に検討されるべきで、取得時効が成立する場合にはXの権利が認められると判断しました。なお、戦前の大審院判例の中には、Yの相続回復請求権が認められる場合はXによる取得時効は認められないとした判例がありました。しかし、大審院判例に対しては学説の批判が強く、先例としての意義を失ったと上記高裁判決は判示しています。