経営判断の原則

大手ハウスメーカー会社が、地面師による詐欺行為によって売買代金名目で多額の金銭をだまし取られた事件がありました。株主代表訴訟が提起され、この取引にかかわった取締役が会社に対して責任を負うかが問題となりました。

原告株主は、売買契約を稟議書によって承認したことや残代金決済前倒しを承認したことが経営判断上の誤りであるなどと主張しました。これに対し、大阪地裁令和4年5月20日判決(判例タイムズ1509号189頁)は、取締役の地位や担当職務等を踏まえ、当該判断の前提となった事実等の認識ないし評価に至る過程が合理的なものである場合には、判断の推論過程や内容が著しく不合理なものでない限り、取締役は責任を負うことはないとの一般論を述べた上で、稟議書の記載や担当従業員から個別に受けた説明に依拠して判断することに躊躇を覚えさせるような事情があったとは認められないとして、原告の請求を棄却しました。

取締役の業務執行は、不確実な状況で迅速な決断を迫られる場合が多いことから、事後的・結果論的な評価がなされてはならず、合理的な情報収集・調査・検討等が行われたか、取締役に要求される能力水準に照らし不合理な判断がなされなかったかを基準になされるべきと考えられています。これを経営判断の原則と呼び、本判決もこの考え方に則って、下部組織からの報告に依拠して意思決定を行ったことが不合理な判断ではなかったとして、取締役の責任を否定しました。