結城正美『文学は地球を想像する-エコクリティシズムの挑戦』

「環境の危機とは、突き詰めれば、想像力の危機である。(中略)環境問題は、海や土や森や大気への『共感的想像力』の欠如が招いた結果だといっても過言ではない。」

環境への関心は自然と生じるわけではなく、物語すなわち文学が、環境への想像力を喚起する役割を果たしてきた。高度経済成長期に起きたいわゆる四大公害病については、誰もが教科書的な知識をもっているが、とりわけ水俣病が今なおアクチュアルな問題として論じられているのは、石牟礼道子『苦海浄土-わが水俣病』というすぐれた文学作品を得たからだと著者は述べます。本書では、ほかに灰谷健次郎や多和田葉子、カズオイシグロなどの作品を通して、「進歩に絶対的価値を置く思考を再調整」する必要が説かれます。

『苦海浄土』について、私はこれまで、被害に苦しんだ人びとの声を集めたルポタージュ、ノンフィクション作品だと思っていました。本書をきっかけに通読したところ、文学あるいは私小説と評される意味がわかりました。石牟礼によって語られる患者たちの声なき声は、読者の心を揺さぶります。一度読んだだけでは味わいつくせない重厚な文学作品でした。