高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』

同じ会社で働く男性社員二谷と女性社員押尾の視点で、職場の人間関係を描いた小説です。

同僚の女性社員芦川は、仕事があまりできず体調を崩して早退しては他の社員にしわ寄せがいきます。そんな芦川が職場で気に入られ、守られているように見えることが、押尾は許せません。押尾が好意を寄せる二谷は、おいしいごはんに興味がなく、カップ麺などジャンクフードで食事を済ませたい人です。ひそかに芦川と交際し手料理を振る舞われますが、内心では嫌気がさしています。

芦川は、迷惑をかけたおわびにと、職場に手作りお菓子をつくって持ってくるようになり、評判はさらに上がります。そんな中、二谷と押尾がある行動に出ることで、職場は一気に不穏な空気に包まれます。

二谷と押尾は、それなりに仕事のできるまっとうな社員ですが、「皆で支え合って仕事をし、おいしいごはんを皆で楽しく食べる」まっとうな感覚になじめない人たちです。「仕事のできないあの人がなぜ私より評価されるの」「おいしいかどうかは人それぞれなのに、なぜ皆に合わせておいしいと言わなければならないの」。ある意味屈折した彼らの思いは、周囲に届かない分、より切実さが増すように思えます。「おいしいごはん」を好まない二谷が、最終的には「おいしいごはん」をつくる家庭的な女性、芦川に心惹かれるという展開もまた見事な、面白い小説でした。