経済産業省に勤務するトランスジェンダー女性(生物学的な性別は男性だが自認する性別は女性)の上告人は、執務室のある階とその上下階の女性トイレの使用が認められず、それ以外の階の女性トイレのみ使用が認められるという処遇を受けていました。最高裁令和5年7月11日判決(判例タイムズ1516号51頁)は、上告人が女性トイレを自由に使用することについてトラブルが生ずることは想定し難く、特段の配慮をすべき他の職員の存在が確認されてもいなかったとして、本件処遇は違法と判断しました。
経産省が本件処遇をとったのは、数名の女性職員がその態度から上告人の女性トイレ使用に違和感を抱いているように「見えた」ためでした。渡邉惠理子・林道晴補足意見は、違和感を抱いているように「見えた」ことを理由とする本件処遇に合理的な理由はないとし、「施設管理者等が、女性職員らが一様に性的不安を持ち、そのためトランスジェンダー(MtF)の女性トイレの利用に反対するという前提に立つことなく、可能な限り両者の共棲を目指して、職員に対しても性的マイノリティの法益の尊重に理解を求める方向での対応と教育等を通じたそのプロセスを履践していくことを強く期待したい」と述べました。
昨年刊行された周司あきら・高井ゆと里『トランスジェンダー入門』を併せて読むと、トランスジェンダーの人たちが抱える困難に触れ、理解を深めることができます。