第一次世界大戦にドイツ兵として実際に従軍した作者による戦争文学です。
塹壕戦や毒ガス攻撃で兵士は心身ともに荒廃し、いとも簡単に命が尽きていきます。戦場での残酷な描写が大部分を占める中、主人公ボイメルが戦友とともに豚を仕留め豪華な食事を楽しむ場面、休暇中に家族のもとに一時帰還して母と再会する場面など、青春のさなかを生きるひとりの青年の姿が、美しく、ときに悲しく描かれていました。身を守るためとっさに殺してしまったフランス兵を憐み、彼の家族に対し手紙を書こうとまでするボイメルの姿には、戦場の狂気の中にあっても失われない人間の尊厳をかいま見ることができます。
絶望的な戦況の中、ボイメルは最後に命を落としますが、司令部の報告は「西部戦線異状なし、報告すべき件なし」という冷酷な内容でした。戦争という人間の所業がいかに愚かなものか、本作品に込められた作者のメッセージは、どれだけ時を経ても変わらない真理だと思います。