今井むつみ・秋田喜美『言語の本質-ことばはどう生まれ、進化したか』

メロンを理解するためには、丸く薄い緑色という視覚、甘いという味覚などの身体経験が必要である。身体経験を経ずに記号と記号との結びつきによってことばを認識するAIは、メロンを理解したといえるのだろうか。「記号接地問題」といわれるこの問題を足がかりに、なぜヒトだけが言語を持つのか、言語とは何か、が考察されます。

一つ目の鍵は「オノマトペ」。「ふわふわ」した雲、「もぐもぐ」食べるなどの擬態語、擬音語です。子どもが抽象的な記号の体系である言語を習得する過程で、オノマトペはどのような役割を果たすのか。日本語に比べて英語でなぜオノマトペが少ないのか、など興味深い話とともに議論が進みます。

二つ目の鍵は「アブダクション推論」。仮説形成という訳語が表すとおり、誤りを犯しそれを修正しながら知識の体系を再編成する推論を意味します。ある実験によると、ヒトの乳幼児にはできて、チンパンジーにはできないそうです。いま、ChatGPTなど生成AIが大きな話題となっています。AIとヒトとを分かつヒト特有の能力が、アブダクション推論なのかもしれません。