性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下「特例法」)第3条1項3号によれば、性別の取扱いの変更が認められる要件として、「現に未成年の子がいないこと」が挙げられています(以下「3号要件」)。未成年の子がいるため性別変更が認められなかった原告が、特例法の3号要件は憲法13条、14条1項に違反すると申し立てました。
最高裁令和3年11月30日判決(判例タイムズ1495号79頁)の多数意見は、憲法13条、14条1項に違反するものではないとしました。これに対し本稿では、憲法13条に違反するとした宇賀克也裁判官による反対意見を紹介します。
特例法の3号要件が設けられた理由は、現に子がいる場合にも性別変更を認め「女である父」や「男である母」を認めることは、家族秩序に混乱を生じさせ、子に心理的な混乱や不安などをもたらし、親子関係に影響を及ぼすというものです。宇賀反対意見は、未成年の子に心理的な混乱や不安をもたらすのは、ホルモン治療や性別適合手術により服装や言動など外観が変化する段階であり、戸籍上の性別の変更によって子に心理的な混乱や不安をもたらすという説明は、漠然とした観念的な懸念にとどまるのではないかと指摘しました。
今回の最高裁判例は憲法違反とは結論付けませんでしたが、特例法の3号要件のような制限を設けている国は我が国以外に見当たらないようです。遠くない将来において、憲法違反とされ廃止される可能性も十分にあるのではないかと考えています。